2011/06/02

若さの秘訣

お年を伺って驚いた、67歳。その若さの源は馬力ならぬ牛力だと言う。

南相馬市原町区の中心から自転車で15分ほど北西に進むと、民家もまばらになり山も近づき深野地区に入る。そして山へ分け入る急坂の小道を、勢いをつけて駆け上がると風景は一変し、そこには山間の牧草地帯が広がっている。この牧草地帯の一番奥にある牛舎で、門馬敬典さんは100頭以上の肉 牛を飼育しながら生活している。

門馬さんはこの道40年以上のベテランの牛飼いさんだが、家は代々競走馬の育成をしていた。門馬さんもその家業を引き継いだが、ハイリスク・ハイ リターンの不安定な仕事に嫌気がさし、一発奮起して定期的に収入が入る肉牛の飼育を始めた。以来規模を徐々に大きくし、奥さん、娘夫婦の4人で順調に飼育していた。その時に襲ってきた今回の大震災。幸い地震による被害は殆ど無かったが、その後に続いた原発事故の影響で、幼い子どもをもつ 娘夫婦は山形に避難を余儀なくされた。
原発事故後、門馬さんは奥さんと話し合い「最初から避難しないと腹を括って」いた。どんなに餌をやって避難したとしても牛は餌を分けて食べることなどせず、すぐに餌は底を尽きてしまう。門馬さんは牛飼いとして、そんな牛たちを残して避難することなどできなかったという。
2人で残った門馬さん夫婦は、震災以前は4人でやっていた作業を老夫婦でこなさなければならなくなったが、この状況になって門馬さんは気付いた。自分が牛を支えているのではなく、牛に支えられているのだ、と。門馬さんは言う、「大震災で牛がいなくなってしまったら生きる力が無くなってしまう」と。「年をとっても牛扱いをやってられるからなんとか気力が湧く」のだそうだ。そんな門馬さんの誇りは、もちろん牛。

ふと気になって門馬さんの牛のセールスポイントを尋ねてみた。答えに窮している門馬さんを見て愚問だったと思い始めたが、ふと「事故が少ないことかな」と答えてくれた。早期発見・早期治療をモットーとし、事故が少ないのがウリだと言う。「なんだ、あるじゃないですか」とよほどツッコミを入 れようかと思ったけれど、牛を日々観察して状態を確認したり、愛情を持って接したりというのは門馬さんにとっては牛飼いとして当然のことなのだと察し、軽率なことを言わなくて良かったと安堵した。

お話も終わり、お忙しいとこ長々とすみませんと私が言うと、「アッハッハー、バリバリ仕事やってたら体なくなっちめーよ」と豪快に返された。

牛力を漲らせた門馬さんから、若さの秘訣を垣間見た気がした。


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