ターフを雷光の如く駆け抜け、競馬ファンに数々の衝撃を与えた平成の名馬、ディープインパクト。その名前を堂々とラーメンに使用するのだから、大将の度胸は半端ではない。
屋内退避指示が発令されていた4月上旬の南相馬市原町区商店街にて、道端にラーメンのノボリがはためくのを見て僕は色めき立った。この頃は数件の定食屋さんとコンビニが営業を再開していたが、ラーメン屋さんが始めているのは見たことが無かった。僕は自称ラーメン好き。1日3食とはいかないまでも、1日1食だったら毎日でも食べられる。長い海外の撮影でも思い浮かべる日本食は寿司とラーメンである。ラーメンを「絶食」していた南相馬での撮影中に、そんな僕が暖簾をくぐらない訳が無い。
お店の名前は「すず」、カウンターのみの7席で、お客さんは僕1人。期待を膨らませてメニューを見やると少々落胆した、醤油、味噌、塩味が列挙してあった。これはあくまでも個人的な印象だけれども、色んな味を手広くやってるお店はイマイチな味が多い。そんな時に飛び込んできた文字、「ディープインパクト」。味の想像は全くできないが、競馬ファンのみならずともこのネーミングに、大将の意気込みを感じることができると思う。僕の中ではほぼ決定していたのだが、一応大将に尋ねる。
「ディープインパクト」って何ですか?
「辛いのが平気だったらオススメです」
辛いラーメンは好きな方なので注文をし、お客さんが僕1人なのをいいことに大将に話しかける。お名前は鈴木修一さん。10年ほどの下積みを経て、お店は昨年10月にオープンしたばかり。やっと地元の方々に「すず」を認知してもらった頃に襲ってきた地震、そして原発問題。被災後材料が手に入らずお一旦店を閉めたが、「この味を諦めずに続け、皆さんに安らいでもらいた」いと思い直し、営業を再開したと熱く語ってくれた。この大将、一目見た時にも思ったのだが、お話しをしていて確信した。ちょっと変わってる、と。ヒゲ面はどのラーメン屋でもトレードマークのようなものだが、細身なのは珍しい。取っ付きにくい風貌だが、話してみると突拍子もないことを言ってみたり、愛嬌のある笑顔を浮かべる。この大将と、狭いながらも妙に居心地が良いお店の雰囲気につられ、長居するお客さんも多いと言う。
そして肝心の「ディープインパクト」とご対面。色が辛さのせいかやや赤い。まずはスープをすする、美味い。辛さの中に様々な味が飛び交っている。そして麺は太麺でコシがあり、スープと絶妙なハーモニーを奏でている。これは「ディープインパクト」の名に恥じない衝撃、気づいたらスープまで飲み干していた。これは僕が行きつけにする程の味で、食後に「美味しいですね」と大将に声を掛けると、照れながら「ディープは5年くらい前に開発してたんですよ」と笑って答えた。
後日、再来店した時に大将の誇りを聞いてみたところ、答えは「地元」。大将にとって地元の原町は「家族に例えると母親のよう」であると言う。言い得て妙なり。そして「生まれてきてから築き上げてきた地元を守りたい」と思い、お店を再開することでその先陣を切りたかったようである。
ここまで興味深いことを語ってくれるので撮影を依頼したところ、快諾してくれた。大将の誇りである「地元」を守るお店を背景に撮ろうということになり、お店の前に立ってもらうと、、、、決戦前のような形相で僕に向かってきた。シャッターを切りながら可笑しくもあったが、十二分に大将の思いが伝わってきた。
味も大将も、ディープインパクトだった。
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