命は与えたり、もらったりするものではないが、弱冠20歳の青年は『もらった命』と臆することなく言ってのけた。
津波が全てを呑み尽くし、その後に残った瓦礫も自衛隊によって片付けられた4月下旬の南相馬市原町区渋佐。私はここで荒くんと出会った。彼を一目見て、彼の大きな体躯から溢れる愛くるしい笑顔と、奥底に潜む強い意志に惹かれた。
小さい頃から機械を触るのが好きだった荒くんは、地元の高校を卒業後に就職し、自宅のある渋佐から通って勤めている。この日は仕事がお休みで、近所付き合いがあるお宅の家の片付けを手伝っていた。
彼の手が空いた頃合いを見計らって早速、撮影を申し入れたところ快諾してくれた。一通りお話を伺った後、撮影を兼ねて地元の被災地を案内してもらうと、彼の地元愛が堰を切ったように流れ出し、多くの思い出を語ってくれた。
「この季節になると村は田植えとその準備で大忙しだった」、「村人のほとんどが顔見知りで、年長者にかわいがってもらった」、「この地元を離れるつもりは全くない」、等々、もうこれでもかという位に地元愛のオンパレードだった。
そして彼の誇りは当然、地元。彼の夢は自分を育ててもらった渋佐を「20年、30年かかるか分からないが、元通りにすること」だそうだ。
彼が愛してやまない地元での撮影中、突然分厚い雲間から光が降り注いできた。光をバックにした荒くんは、まるで地上に舞い降りてきた救世主のように見えた。
帰る道すがら、逞しく生きる雑草を見て彼は独りごちた。
「草は強ぇーなぁ」
続けて言った。
「自分の命は亡くなった人々からもらった命。代わりに生きて行くつもり」と。
彼が背負ったものの大きさを危惧したが、彼ならやってのけると信じ、私は彼に別れを告げた。
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