2011/04/27

牛飼いとしての誇り

被災の生々しさを伝える崩れかけの土蔵の牛舎を横目に、南相馬原町区馬場の牛飼い、瀧澤さん宅のインターホンを押し、来訪を告げる。出迎えてくれたのは、今は息子さんに経営を任せている徳雄さん、70才。薪ストーブがある客間に通してもらってお話を伺うが、長年絶え間なく続けてきた重労働を物語る厳つい表情と、高齢者特有の激しい訛りのせいで多少尻込みしてしまう。現地で知り合った人を交えて何とか会話を続ける中、放射能の影響で搾った原乳は全て廃棄していることを知らされる。
牛舎に案内してもらうと一転、瀧澤さんが持つ柔の面が浮かび上がってきた。50頭弱いる乳牛を見遣る眼差しは優しく、口調もどこと無く柔らかくなった気がした。そして愛牛を撫でながら言った。
「ベコ(牛)は家族の一員。人間のために尽くしてくれたベコを見殺しにはできねぇ」
そう、瀧澤さんの牛舎は原発から30km圏内の緊急時避難準備区域に入っているため、いつ避難指示が出されるやもしれないのである。
そこで私は先程、瀧澤さんと交わした会話を思い出した。
「父の代より一頭の牛から規模を大きくしていったからこそ、牛飼いとしての誇りがある。」
地震も原発も、この人の信念を変えることはできないのだと感嘆し、瀧澤さんに礼を言って牛舎を辞した。



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