2011/04/25

「わたしの誇り」

「あなたの誇りとは何ですか?」

私はいま、被災者にこのように尋ねまわって撮影している。

東北沿岸部を襲った巨大地震・津波の被害をメディアを通じて見て、私は写真家として何ができるか、日本人として何ができるかを己に問い続けた。しかし圧倒的な被害を前に答えを見出せず、悶々とした日々をいたずらに過ごしていた。

答えを出せずとも独り、東北の過去・現在・未来に思いを巡らせていた。
辺境としての東北。米の供給地としての、労働力の供給地としての、ひいては電力の供給地としての東北。中央から搾取され続け、壊滅的被害を被った後もまた、同様の構図の復興が叫ばれている東北。

そんなある日、テレビから私の眼に一つの映像が飛び込んできた。

『東北人魂』

サッカーのチャリティーマッチでの入場の際に被災地である大船渡市出身の小笠原満男選手がT-シャツに刻み込んでいた言葉である。彼の無言でありつつも気高いその佇まいを見て、私が抱いていた東北人の姿と重なった。
東北人の姿。それは苦難に耐え忍び、黙々と日々の営みを続ける姿。

壊滅的な被害を受けてなお、屈することなく復興という出口が見えない戦いに無言で挑んでいくその魂を記録することが、私が写真家としてできる唯一のことだと思い、このプロジェクトを始めることにした。
そして私は相馬・南相馬両市に向かった。この地域は旧相馬藩領で、野馬追祭りを通じて市を越えて伝統や風習が人々に色濃く受け継がれ、土地に根付いている。加えてこの地域は原発事故を受けて警戒区域、緊急時避難準備区域、計画的避難地域、そして区域外と分断されている。
彼らが長きにわたって紡いできた伝統や風習が危機に瀕している今こそ、彼ら、彼女らの無言の声に耳を傾け、記録したいと、記録するべきだと思った。

被災者が抱える闇は私の想像を絶するものだと思う。
願わくば、深い暗闇に迷い込んだ際に、被災してもなお誇り高く屹立している写真の中の己の姿を見て、東北の大地に生き、生かされてきた自分を思い返してもらい、一筋の光としてもらえたらと思う。
そしてより多くの人々に、彼ら、彼女らの姿に思いを巡らせてもらえたら幸せに思う。

2011年4月24日記

高橋かつお

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