2011/07/21

バカじゃないと



相馬野馬追祭りに関しては「戦国絵巻さながらの光景」とずいぶん前から耳にしていたし興味もあったが、お一人の参加者にお会いして、お祭りに参加している相馬武士の一端を見た気がした。

その方は深野利正さん。生まれも育ちも南相馬市原町の深野さんは、野馬追にはもう30年近く参加している大ベテラン。幼い頃から相馬武士が甲冑を身につけ乗馬にて市内を練り歩く姿に憧れ続け、大人になり経済的に余裕ができてから参加し始めた。
深野さん曰く、野馬追の参加者のタイプは大きく分けると「お祭りが好きなタイプ」と「馬が好きなタイプ」の2つに分かれる。前者は馬を直前に他から借り、後者は馬を一年を通じて飼うんだという。そして深野さんは正真正銘、後者。数年の間は馬を借りて参加していたが、お祭りの期間だけではなく毎日馬と関わっていたいと思い、馬を飼育するようになった。

深野さんのこのスタイルはよく分かる。僕は大学時代は休みとなると馬小屋に泊り込んでいたが、馬に乗るよりも馬を世話している方が好きだった。勿論、馬の世話は簡単ではない。どんなに遅くまで飲んでいても朝にエサをやらなければいけないし、冬の厩舎作業は寒さとの戦いだ。でも馬と触れ合っていると、不思議と作業の辛さを忘れてしまう。

今は町の外れに厩を借り、そこで2頭の馬を飼育している。朝夕にエサをやるにも放牧するにも、何をやるにもすべて深野さんがそこへ通ってやっている。原発が爆発し市民の多くが市外に逃れた際も深野さんは原町に残り、ガソリン不足の際は毎朝1時間以上歩いて通って世話をしていた。馬の飼育と甲冑などの野馬追参加の準備はお金と労力がかかるが、それでも馬を飼育し野馬追に参加するのは、ひとえに「馬が好きで、馬と接するのが好きだから。好きなものは仕方ない」とキッパリ言う。馬が好き過ぎると、「自分のご飯は食べずとも、自分の馬だけは堂々とした肉体にしておきたい」と思うのだそうだ。そして続けて言った「バカじゃないとできない」、と。

こんな深野さんは自分の馬だけではなく、他人の馬も放っておけない性格だ。3月下旬、避難指示が出ていた原発20キロ圏内の国道近くで馬が文字通り「路頭に迷っている」と聞いて居ても立ってもいられなくなり、馬運車を手配してその馬を捕獲して厩舎に連れ帰った。誰の馬か、これからどうするかのアテもないまま。結局はNPOの助力を得て県外に避難させることができたのだが、それまでの間は深野さんがボランティアで飼育していた。

恐らくこの地域の人は『ムダ』を排除するとか『楽をする』と言う現代の価値観で動いてはおらず、逆に『ムダ』と『労力』に美を見出しているように思える。でなければ馬と甲冑を自費で用意した武士が500人以上も集まらないだろう。お祭りには余剰の消費という側面もあるし、「武士は喰わねど高楊枝」とも言う。そんな『バカさ』に僕は憧憬を抱く。そして想像した。僕もこの地に生を授かり育ったら立派な『バカ』になっていたのだろうと。

今週末に開催される野馬追は規模を縮小して行われるため、残念ながら『バカ』が勢揃いとはいかなそうだ。来年こそは、見てみたい。



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