2011/08/08

献身の精神


このシリーズを始めて以来、僕は看護婦さんを探していた。別に個人的な趣味ではなく、震災後、原発事故後のこの状況で病院に残っている方はさぞ誇りを持って働いているだろうと思ったからだ。だが出会いはいっこうになく半ば諦めかけていた頃、取材先の相馬の幼稚園で看護学校の学生さんが実習に来ていると聞き、早速紹介して頂いた。

実習に来ていたのは相馬看護専門学校3年生の6人だったが、4人は宮城県から通っているとのことで、残りのお2人にお話を伺う。その内のお1人が鎌田美咲さん。出身は警戒区域内の小高区で、家は津波により流されてしまい原町区で暮らしているという。私のプロジェクトの説明をした後に、「あなたの誇りは何ですか?」と尋ねると、困惑しつつも「看護師を目指していることです」と答えてくれた。さらに「失うものは何もなく、前に進むしかない」と語り、しっかりと前を見据えていた。どうせ撮影するなら制服姿でとお願いしたら、ちょうど2日後は学校で自習とのことなので、さっそくアポをとった。

当日学校に行って鎌田さんにお会して話してみると、ちょっと様子が変、と言うより声がほとんど出ない。どうやら風邪をこじらせたよう。幸い撮影は可能とのことなので撮影を済ませ、インタビューは後日することに。

後日お話を伺うと、思っていた以上にしっかり者だった。母親が介護福祉士として働いている姿を幼い頃から見ていたので、「人と関わる仕事がしたかった」からと看護師を高校2年の時に志した。震災前は、看護学校卒業後は隣町の原町の病院に勤めるつもりでいた。理由は、自分を育ててくれた大好きな地元をこれからは自分が支えたいと思っていたから。そして患者さんにとっても、地元の知っている人が看護師としていた方が安心するのではないかと、患者さんのことまでしっかり考えていた。さらに鎌田さんは働く病棟も急性期と決めている。その訳は自分が看護師として見返りを求めているのは金銭的報酬ではなく、「ありがとう」という患者さんの言葉や、患者さんの目に見える回復という心理的報酬であり、そうでないとモチベーションが保てない自分を知っているからだと言う。

これだけ自分の考えを整理できているだけで素晴らしいのに、近い将来看護師として働く覚悟もすでにできていると言う。もちろん仕事は厳しいだろうし、人と向き合う仕事は責任重大なので不安もあると言う。だが学校の授業を通して今まで色々学んだので、誠意を持って向き合えばなんとかなるに違いないと信じているそうだ。鎌田さんのお話を伺っていると、僕が鎌田さんぐらいの年の頃、何も考えていなかった自分がなんだか恥ずかしくもあり、だからこそ今の彼女のこの姿勢は立派だと素直に感心もした。

ここまでお話を伺って撮影の時に鎌田さんの様に納得がいった。制服姿になった鎌田さんはこちらがビックリするほど落ち着いた、堂々たる様だったのである。まるで現役の看護師さん、いや看護師長さんくらいの雰囲気を醸しだしていた。やはり外見は内面を映し出す鏡だなと思った。

インタビューの最後に誇りについてもう一度尋ねると、今度はキッパリと彼女は言った、「自分より他人を優先的に考える看護師を目指している自分」と。この献身の精神、今この時代でとても大事な精神な気がする。そしてこの精神を産み出す大地、文化に人々が今立ち入れないという事実が、あまりにも重い。





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